

東京事務所の川上です。今回は、昨年11月に茨城県境町で運行を始められた「自動運転バス」をご紹介します。
西鉄グループでも、昨年秋に「朽網駅~北九州空港線」で中型自動運転バスの実証実験をおこなっています。
こちらは幹線的な二次交通(中量輸送)を担う役割でしたが、
今回ご紹介する自動運転バスはグリーンスローモビリティー(低速で低炭素型の小量輸送)に類する役割となっています。
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茨城県境町「自動運転バス」
〇基本情報(2021.4.1現在)
運行主体:茨城県境町 (協力)BOLDLY㈱(ソフトバンク系)、㈱マクニカ(半導体商社)
運行台数:2台(保有3台) 仏Navya(ナビヤ)製「NAVYA ARMA」
定員:11名(※現在4人までに制限)
便数:20便(平日9時40分~午後4時)
最高時速:18㎞(車両スペックは25㎞)
運行距離:片道約2.5㎞
停留所数:8か所
運賃:無料
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異例の"スピード導入"の背景
茨城県境町は、県西域に位置する人口約2万4千人の町であり、江戸時代は利根川の船運により繁栄していたそうです。
最近では、建築家 隈研吾氏設計の施設を6カ所整備(全国最多)されたことで注目を集め、町外から多くの方が訪れているそうです。
本題に入りますが、境町には鉄道駅がなく、公共交通が不便な地域であったことに加え、高齢化や乗務員不足により、
公共交通の維持・確保に苦心されていたそうです。
そんな中、2019年11月に自動運転バスのニュースを知り、翌月の12月に早速BOLDLY㈱と面談、
年明け1月の議会で事業予算5億2千万円(5年間)の承認を得て、
コロナ禍で半年間延期となったにもかかわらず11月より運行を開始するといった異例のスピード導入を実現しています。
実装までの期間はわずか1年。本当に驚かされますね。
町長の明確なビジョン、果敢な決断に加え、強いリーダーシップが導入の決め手となったそうです。
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高い技術力と地道な取り組み
この車両はマッピングの技術とGPSの位置情報を重ねて自己位置を確認し、センサーを使って障害物を検知することで自動走行します。
必要はないのでしょうが、ハンドルも運転席もないことには、やはり驚かされます。
また、期間を定めず定時・定路線で定員11人の自動運転バスが公道で運行することは日本初だそうです。
現在はオペレーターが乗車し、一部手動で運行していますが、遠隔管理のもと完全に自動走行することができる技術は既に備わっているとのことでした。
写真左:車両の後ろ側には「追越危険」などの注意喚起がなされています。
写真右:状態監視や緊急時の対応に加え、急ブレーキ数など危険なポイントの洗い出しも。
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一方、運行・運営については大変地道な取り組みをされていました。
告知はSNSも活用されているとのことですが、高齢者が主に利用されることもあり、回覧板やチラシの戸別配布が中心だそうです。
また、低速で運行することで周囲の車やバイク、自転車等にも不便をかけることがありますが、
その際できるだけ退避して道を譲るとともに、オペレーターが後続車に丁寧に頭を下げられていたことが印象的でした。
地域のバス会社やタクシー会社にも定期的に訪問してコミュニケーションを図られているそうです。
本年2月に新たに6つのバス停を追加したのは一義的には利便性の向上ですが、周囲の交通への負荷を減らす目的もあったそうです。
このような努力と事故や大きなトラブルなく運行を続けている実績から、運行当初は地域の方に戸惑いもあったが次第に受け入れられて、
今では多くの方に応援いただき、「まちの誇り」となっているそうです。
今後は、「レベル4(走行ルートや時間帯など特定の条件下での自動運転)」を目指してチャレンジを続けられるそうです。
(写真↑)地元のパン屋さんも自動運転バスを応援!デザインもサイズも素敵です。
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自由に安全に移動できる世の中へ
視察中、運行を協力されているBOLDLY㈱の方にお話をお聞きする機会をいただきました。
技術に加え、地域の理解があるにもかかわらず、課題は山積みのようです。
ひとつは「法令面の整備」、現時点では中型免許保有者の同乗が必須です。
次に「インフラの整備」、自動運転には信号との連動が不可欠ですが、高額な費用を誰がどのように負担するのかが決まっていません。
最後に「運行コスト」ですが、彼らは運賃(受益者負担)だけでは持続的なサービスの提供は難しいと考えており、
地域(税金、企業など)で一定程度負担するスキームも検討課題との認識をもたれておりました。
山は高いけれども、同社が目指す「すべての人々が自由に安価に安全に移動できる世の中」に向けて、ひたむきに努力する姿勢に大変感銘を受けました。
地域の公共交通の維持・確保は全国共通の課題であり、コロナ禍により状況はさらに厳しくなっている一方、
技術の進展により多様な取り組みが始められています。
首都圏での取り組みについては、今後も適宜お伝えしていきます。
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