
7月上旬、九州など各地を襲った「令和2年7月豪雨」。
西鉄沿線でも特別大雨警報が出された6~7日を中心に大きな被害を受け、大牟田線の柳川~大牟田駅が2日間、甘木線全区間が3日間にわたって運行停止となりました。
この非常事態に西鉄の技術者たちはどう対応したのか。一刻も早い運行再開のために、最前線で復旧作業にあたった西鉄エンジニアリング(株)電気部電力保守課の皆さんと土木部線路保守課の皆さんに当時の様子をインタビューしてきました。
安全運行を守る踏切設備の復旧に全力 電気部 信通保守課
鉄道の電気設備を守るチームとしてどう動かれたのでしょうか。
有江区長(以下敬称略)
7月6日は大雨が続く予報であったため、対応に備えていました。
17時に本部から非常待機の連絡があると、すぐに待機の社員数を増員し19時半には一度帰宅した社員にも呼び出しをかけました。
檀浦課長(以下敬称略)
これまでは大雨の被害は機器点検だけで済むことが多かったのですが、ここ数年は集中豪雨の頻発で、台風や雷と同様、電気設備まで被害を受けるケースが増えています。
猿渡さん(以下敬称略)
以前に冠水した箇所は、電気設備を高い所に取り付け直していましたが、今回は雨量が非常に多く、これまで被害をうけなかった場所が冠水してしまいました。
【電気設備が冠水赤丸箇所】
有江
踏切装置は、レールに流れる電気によって列車を検知し、鳴動する仕組みになっています。しかし、その機器が冠水によって壊れてしまい、運行停止中にもかかわらず、遮断機が下りて鳴動し続けるという事態が発生しました。地域住民や警察など発見された方が西鉄に連絡をいただく場合もございます。
私たちは出動指示の発令を受け、現場で誤作動を止め、運行再開前にはすべて正常動作するよう取付及び調整を行います。試運転時には列車の前後に添乗し踏切装置等の動作が正常であるか確認を徹底します。
復旧作業の苦労、再開できたときの心境をおしえてください。
使命感を持って仕事する組織風土が確立
有江
自分たちの身の安全を確保しながら現場に近づくのが本当に大変でした。主要な道路が冠水で通行止めとなったので、車で通れる道をあちこち探して回りました。
【甘木線付近の道路が冠水】
田中さん(以下敬称略)
現場で処置を終えて車に戻ろうとすると、さっきは見えていたはずの線路が冠水して全く見えなくなっていて...その間わずか5分!足元も見えず、線路の下が水路という場所もあり、足を踏み外すと落下する危険に恐怖を感じました。
石橋さん(以下敬称略)
異常を知らせてくれた地域の方たちが、復旧作業中に心配そうに私たちを見守られており、沿線沿いに住まわれていることは西鉄を利用されている方々。早く運行を再開させなくてはという気持ちが強まりました。
有江
電気設備は後から不具合がでることもあり、運行再開後もしばらくは気を抜けない日々が続きます。それでも復旧できたときはとてもホッとしました。
檀浦
それぞれ自宅の被災状況も心配だったはずですが、しっかりと対応してくれました。
これも使命感を持って仕事に奮闘する先輩を間近で見て若い世代も責任感が芽生えるという、組織風土が確立しているからだと思います。
線路の"完全復旧''を使命に一致団結 土木部線路保守課
線路の復旧にあたった当時の状況を教えてください。
近藤区長(以下敬称略)
6日午前中から雨量計の数値が上がり、列車は徐行運転となりました。私たちは、大雨のときに被害を受けやすい傾斜面を徒歩で巡回。午後には担当区間の甘木線が運行停止になりました。
通常宿直は1人ですが、その夜は急遽4人体制で対応に変更をしました。
古賀さん(以下敬称略)
近くの川が氾濫して線路に流れ込んでいたり、線路の両側に広がる田畑との境が分からないほど一帯が水浸しになっていたり、深刻な状況でした。
【甘木線線路冠水】
近藤
水が引き出したのは2日後の7月8日で、そこからが復旧作業のスタートでした。線路内に流れ込んだゴミを撤去し、流出してしまった砂利を敷き直します。枕木の下に十分に砂利がないまま電車を走らせると、列車の振動を吸収できず、脱線してしまうおそれがあるのです。
復旧作業が終わるとレールカートという線路上を自転車で巡回点検をします。その後の試運転時は線路際の異常の有無を目視で確認します。
【このレールカートに乗り実際に線路を巡回】
復旧作業の苦労、再開できたときの心境を教えてください
石橋さん
呼び出しに備え、いつでも出社できるよう待機が続きました。いつ連絡がくるかわからない緊張感で正直疲れました。
平川さん
私は入社2年目で、災害対応は今回が初めて。冠水している道路をトラックで通るときはさすがに怖いと思いましたが、線路の状態確認が自分の仕事だという使命感で乗り切りました。
井上さん
「雨の中大変ね。お疲れ様」と、巡回中は近隣の方からの声掛けが励みになりました。
清原さん
私は今年入社で経験が浅いため、事務所での待機でしたが、懸命に業務に取り組む先輩方を見て「すごいな、自分もこうなりたい」と感じました。
古賀
電車が止まると、お客さまの生活に大きな影響を与えます。一刻も早く電車を動かしたいと思っても「だいたい大丈夫だろう」では再開できません。復旧作業には細心の注意を払いました。
近藤
安全に目的地までお客さまをお運びすることが西鉄の使命です。災害後は完璧な状態にまで線路を復旧作業させるのが私たちの役割。仮眠続きの出勤中も全員が文句ひとつ言わず協力してくれたおかげで運行再開できました。そのことを本当に感謝しています。
取材をとおして
最前線で復旧作業にあたった西鉄エンジニアリングのみなさんへのインタビューをとおして、お客さまを安全にお運びする西鉄の使命は、一人一人の責任感や使命感の上に成り立っているのだと改めて感じました。また、どちらも職場も従業員同士がお互いを気遣いあいチーム一丸となって作業にあたっていたことが非常に印象的でした。そのチームワークが「安全に鉄道を運行させる土台」をつくり鉄道事業の使命である「移動手段の維持」につながっていると感じました。
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